AI時代に起きている「制作と判断の分離」
AIの進化によって、デザインやコードは誰でも作れる時代になりました。
生成AIを使えば、それなりに整った制作物は短時間で出力できます。
しかし現場では、こんな声が増えています。
「AIで作ったけれど、実務では通らなかった」
「見た目は良いが、案件では使えないと言われた」
「なぜダメなのか説明できない」
問題はAIではありません。
問題は、制作と判断が分離され、実務基準が見えにくくなったことです。
SNSでは「実務で使える」と言われる制作物が流行します。けれど実務の現場では、見た目が良いだけでは採用されません。運用、修正、引き継ぎ、責任まで含めて成立するかが問われます。
このギャップが、いま一気に拡大しています。
なぜAI制作物は実務で通らないのか
AIの出力は、見た目の完成度が高いことが多いです。
ただし、実務で通らない理由はだいたい決まっています。
たとえば、
・要件が曖昧なまま形だけが先に出ている
・誰の意思決定を通ったデザインかが不明
・差し替え、修正、量産を想定していない
・運用で破綻する構造になっている
・説明責任が成立しない
つまり、制作物としては成立していても、承認物として成立していないのです。
実務では「作れたか」よりも「通せるか」が重要です。
通すとは、クライアントの社内、法務、営業、現場、運用という複数のフィルターを通すことです。そこに耐えられない制作物は、いくら美しくても却下されます。
これからのディレクターに求められる前提条件
従来のディレクターは、進行管理や調整役として語られることが多くありました。
しかしAI時代では、その定義では足りません。
これから必要なのは、制作もでき、判断もできるディレクターです。
「判断だけできる人」では机上になります。
制作の現実を知らない判断は、工数や制約を無視した理想論になり、現場を壊します。
「制作だけできる人」では責任が抜けます。
作れることと、通せることは別物です。承認と却下の責任を持たない制作は、結果として実務で通りません。
制作もできるディレクターとは何か
制作ができるとは、単に手を動かせるという意味だけではありません。
少なくとも次のことを身体感覚として理解している状態です。
・実装の難易度を理解している
・修正工数を想像できる
・技術的制約を知っている
・構造の癖や落とし穴を知っている
・差し替えや量産に耐える設計が分かる
この前提があるからこそ、判断が現実に着地します。
AIが出した案を見た瞬間に「これ、後で崩れる」「ここが修正地獄になる」と気づけるのは、制作の現場を通過しているからです。
判断もできるディレクターとは何か
判断ができるとは、見た目の好みで決めることではありません。
実務で通る基準を持ち、責任を前提に承認と却下ができることです。
具体的には、次のような判断ができる人です。
・短期の完成度より長期運用を優先できる
・「今きれい」より「後で壊れない」を基準にできる
・出口(改修、撤退、引き継ぎ)から逆算して設計を見られる
・説明できない判断を通さない
・修正される前提で評価できる
・属人化を危険と判断できる
・作れると通せるを分離して考えられる
・クライアント側の責任まで自分事で考えられる
・却下を恐れない
・半年後の自分が困らないかを想像できる
・成果物ではなく判断理由を見る
・判断を言語化できる
AIは候補を出せます。
しかし、通した後に何が起きるかの責任を負えません。
だからこそ「判断できる人」が必要になります。
制作と判断を分離すると何が起きるのか
制作と判断を分離すると、次の現象が起きます。
・制作物が観賞用になる
・説明責任が消える
・修正のコストが爆発する
・運用フェーズで破綻する
・現場が疲弊する
・結果として成果が出ない
SNSでは完成物が評価されます。
しかし実務では、完成物よりも「その後」が評価されます。
つまり、実務で通る制作物とは、意思決定の結果が視覚化されたものです。
意思決定が通っていない制作物は、どれだけ美しくても実務では採用されません。
AI時代に成立するディレクター像
これからのディレクターは、作らない人ではありません。
作れるが、あえて作らない人です。
制作を理解しているからこそ、判断に重みが出ます。
判断ができるからこそ、制作が成果につながります。
AIが制作を民主化したことで、作れる人は増えました。
しかし、通せる人は増えていません。
むしろ、希少になっています。
だから価値が残るのは、
制作もでき、判断もでき、却下もでき、説明もできる人です。
これからディレクターを目指す人へ
もしディレクターを目指すなら、肩書きから入らない方がいいです。
必要なのは職種ではなく、判断能力です。
次の問いに答えられるかを、自分の基準にしてください。
・なぜこの案は通るのか、説明できるか
・なぜこの案は却下すべきか、説明できるか
・修正を前提にしても破綻しないか
・運用の現場が回るか
・半年後の自分が困らないか
この問いに答えられるようになるほど、ディレクターとしての価値は上がります。
まとめ
AI時代の本質は「制作が速くなる」ことではありません。
本質は「実務判断の重要度が上がる」ことです。
作れるかどうかではなく、通せるかどうか。
美しいかどうかではなく、運用できるかどうか。
新しいかどうかではなく、説明できるかどうか。
ディレクターは、指示を出す人ではありません。
制作物が実務で通るかを、責任付きで判断する人です。
そしてAI時代は、その判断ができる人ほど価値が上がります。