個人営業と法人営業の違いとは、最終的に決める人が目の前にいるかどうかです。個人向けの取引は、商品を使う本人が契約の相手なので、その場で条件を説明しきれば決まります。法人向けの取引は、説明した相手と最終的に決める人が別のことがあり、そのあいだに相手の支払い能力の確認(与信)と社内の手続きが挟まります。同じ商品を売っていても、伝える内容と順番を変えなければ受注に変わりません。
この違いは「個人は感情で決まり、法人は論理で決まる」という説明で語られることが多いのですが、その分け方では次にやることが出てきません。感情か論理かは相手の内心の話で、外から確かめられないからです。確かめられるのは、何人に説明したか、決めた人に自分が会えたかという記録のほうです。
この記事では、厚生労働省が運営する職業情報提供サイト(job tag)に掲載されている営業職の公的な定義を突き合わせて、個人型と法人型で「職務そのもの」がどこで分かれるのかを確認します。そのうえで、直近10件の受注・失注記録から自社の商談がどちら型かを判定し、次に用意すべき材料を決めるところまで進みます。判定に必要なのは、すでに手元にある受注記録だけです。
結論|違いは「決める人が目の前にいるか」
両者を分けているのは、扱う金額でも商談の長さでもありません。契約の相手が「商品を使う本人」なのか「組織」なのかです。ここが変わると、営業の職務に含まれる作業そのものが入れ替わります。公的な職業定義を並べると、その入れ替わりがはっきり出てきます。
| 観点 | 個人型の取引 | 法人型の取引 |
|---|---|---|
| 契約の相手 | 商品を使う本人 | 組織(担当者は窓口) |
| 定義に出てくる手続き | 重要事項の説明・契約書の作成 | 信用状態の調査・契約書の締結 |
| 売り手の体制 | 営業が単独で完結しやすい | 技術者や開発部門と組んで動く |
| 引渡し後の職務 | メンテナンスとアフターサービス | 設置・操作説明会・保守 |
| 説明の中心 | 費用・法令・税などの条件 | 導入後に業務がどう変わるか |
この表の各行は、次章以降で公的な職業定義から1つずつ確認します。先に断っておくと、これは「法人型のほうが高度だ」という話ではありません。個人型には個人型の職務があり、その中身は感情の読み取りではなく、条件情報を漏れなく説明しきることです。
なお、経営・マーケティング・営業がそれぞれ何を担当するのかという役割分担そのものは本記事の範囲外です。そちらは経営・マーケティング・営業の役割分担と販路設計で扱っているので、まず「自社に欠けている機能はどれか」を知りたい場合はそちらから読んでください。本記事は、その判定で「営業が欠けている」と出た人が次に読む1本という位置づけです。
公的な職業定義に「個人営業」「法人営業」という職業は無い
最初に確かめておくべきことがあります。「個人営業」「法人営業」という2分法は、公的な職業分類ではありません。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、営業職を扱う商材ごとに分けて掲載しています。下表の11職業について職業分類の欄を確認したところ、「不動産営業員」「金融・保険営業員」「機械器具営業員」「飲食料品営業員」「広告営業員」「印刷営業員」「通信・情報システム営業員」といった商材基準の名前ばかりで、個人営業員・法人営業員にあたる分類名は1つも出てきませんでした(2026年8月2日確認)。
ただし、それぞれの職業説明を読むと、取引の相手が個人なのか組織なのかは定義文にはっきり書かれています。商材別に並んでいるものを「誰が契約の相手か」で束ね直すと、次のように2つに割れます。以下の分類は公的な区分ではなく、定義文の記述をもとにした本記事の整理です。
| job tag の職業 | 定義文が示す取引の相手 | 本記事の分類 |
|---|---|---|
| 住宅・不動産営業 | 住宅・土地を買う「お客」 | 個人型 |
| 保険営業(生命保険、損害保険) | 定義文に「個人を対象とした保険営業について記載する」と明記 | 個人型 |
| 自動車営業 | 来店客とその自宅を訪問する顧客 | 個人型 |
| 商社営業 | 国や地域、会社の間に立つ仲介 | 法人型 |
| OA機器営業 | 定義文に「顧客は法人が大半を占めている」と明記 | 法人型 |
| コンサルティング営業(IT) | 経営課題の調査から入る顧客組織 | 法人型 |
| 食品営業(食品メーカー) | 定義文に「法人を対象としたルート営業を中心に述べる」と明記 | 法人型 |
| 広告営業 | 企業などの広告主 | 法人型 |
| 印刷営業 | 得意先(企業・団体が中心。個人も対象) | 法人型 |
| 清涼飲料ルートセールス | 販売店と自動販売機の設置先 | 法人型 |
| 代理店営業(保険会社) | 保険を販売する代理店 | 法人型 |
出典はいずれも厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)の各職業詳細ページです(2026年8月2日取得)。表の「定義文が示す取引の相手」は、各ページの「どんな仕事?」に書かれている記述をもとにしています。
ここで大事なのは、公的な分類が商材別だからといって「個人か法人か」の区別が無意味なわけではないという点です。むしろ逆で、商材別に分かれた定義文を読み比べると、相手が個人か組織かで職務の中身が入れ替わっていることが繰り返し確認できます。職種を線引きするときに、肩書きではなく実際の職務内容で分ける発想は、制作側の職種でも同じです。近い例として制作スキルの有無で分けるディレクションとディレクターの違いがあります。
個人型で職務になっていること|条件を説明しきる
個人型の営業でよく言われるのが「人の心を動かす仕事だ」という説明です。ところが公的な職業定義を読むと、そこに書かれているのは心の話ではなく、条件情報を漏れなく説明しきることでした。
住宅・不動産営業|説明の範囲はローン・法律・税まで及ぶ
job tag の「住宅・不動産営業」は、この職業の中核をこう定義しています。
住宅・土地の購入に際しては、買い物や通勤の利便性、住宅の間取り、日当たり、機能性など、様々な点が考慮されるので、営業は幅広い知識と確実な情報を提供し、コンサルタント的な役割を果たす。住宅の間取りや内装、防音材など機能的な面の細部に渡る説明を行うとともに、購入に際して必要となる金融(ローン)、法律、税金などの問題についても説明を行う。
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「住宅・不動産営業」の「どんな仕事?」より(2026年8月2日取得)。
ここに並んでいるのは利便性・間取り・日当たり・機能性・ローン・法律・税金です。感情に訴える言葉づかいは1つも出てきません。同じページには、この職業に従事している人が答えたタスクごとの実施率と重要度も掲載されています。重要度は5点満点です。
| タスク内容 | 実施率 | 重要度 |
|---|---|---|
| 宅地建物取引士として、重要事項をお客に伝える | 78.3% | 3.9 |
| 契約について、お客に説明する | 93.3% | 3.8 |
| 不動産売買契約書を作成する | 88.3% | 3.8 |
| 重要事項に係る内容を、現地や役所等で確認・調査する | 83.3% | 3.7 |
| お客からの不動産取引に関する質問に答える | 86.7% | 3.6 |
| お客の希望条件を聞き取って記録し、条件に合う物件を探す | 85.0% | 3.6 |
実施率がやや低い(78.3%)にもかかわらず重要度が最も高い3.9点なのが「宅地建物取引士として、重要事項をお客に伝える」です。資格を持つ人しか実施できないタスクなので実施率は下がりますが、重要度では他のどのタスクより上に来ています。個人型の営業で最後に効いているのは、雰囲気ではなく、法的に説明が義務づけられた条件情報を正確に渡せているかどうかだと読めます。
保険営業|同じ「個人向け」でも生保と損保で決まり方が違う
job tag の「保険営業(生命保険、損害保険)」は、冒頭で「ここでは、個人を対象とした保険営業について記載する」と対象を限定したうえで、生命保険と損害保険で購買の起点が違うと書いています。生命保険は「セールスを受けて契約する場合が多い」のに対し、自動車保険などは「自動車購入とセットで自分から加入するケースが多く、自動車のディーラーや整備工場など販売代理店で直接契約する比率が高い」とあります。
これは実務上かなり重要な差です。同じ「個人が契約者」でも、売り手から出向いて決まる商材と、買い手が別の買い物のついでに自分から決める商材があるということです。後者では、営業がどれだけ説明を尽くしても、そもそも接触の順番が違います。個人型と分類しただけで打ち手が決まるわけではなく、「相手がどの経路で来たか」まで見ないと施策は決まりません。
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「保険営業(生命保険、損害保険)」(2026年8月2日取得)。
「心か数字か」で分ける必要はない
「個人営業は心、法人営業は数字」という対比は、片方が正しくてもう片方が間違っているという話ではなく、そもそも比較の軸が噛み合っていません。上で見たとおり、個人型の職務は条件情報の提供そのものです。感情への配慮が要らないという意味ではなく、感情は「条件を全部渡したうえで最後に働くもの」であって、条件説明の代わりにはならないということです。
実務でこの取り違えが起きると、症状は分かりやすく出ます。提案時の会話は盛り上がるのに、見積を出した翌週から連絡が返らなくなる。あとから理由を聞くと「ローンの条件が合わなかった」「あとから税金がかかると知った」といった、条件面の話が出てきます。つまり不足していたのは熱意ではなく情報です。
法人型で職務になっていること|与信・編成・引渡し後
法人型の説明としてよく見かけるのが「現場担当者から管理職、経営層へと稟議が上がる」という多段の図です。しかし job tag の法人型3職業(商社営業・OA機器営業・コンサルティング営業(IT))の定義文には、買い手側が何段階で決裁するかという記述はありません。代わりに書かれているのは、売り手側の職務が3つ増えるという事実です。
与信|相手が払えるかを調べるのが職務に入る
job tag の「商社営業」は、契約の前段階に信用調査を置いています。
この際、取引先がきちんと商品や代金を準備できるか、経営に不安がないかといった信用状態を調査することも重要である。
これは心構えではなくタスクとして数値化されています。同ページのタスク一覧を見ると、実施率と重要度は次のとおりです。
| タスク内容 | 実施率 | 重要度 |
|---|---|---|
| 仕入先との取引条件について交渉する | 96.2% | 3.1 |
| 取引先の信用調査をする | 94.3% | 3.0 |
| 契約書を作成し、契約を結ぶ | 94.3% | 3.0 |
| 債権保全措置をとる | 83.0% | 3.2 |
| 在庫を管理する | 88.7% | 3.1 |
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「商社営業」(2026年8月2日取得)。
注意が必要なのは、与信は法人型に固有ではないことです。個人型に分類した「自動車営業」にも「見込み客に関する信用情報を得る」というタスクがあり、実施率95.7%・重要度3.4と高い水準です。ローンを組む商材では、相手が個人でも支払い能力の確認が入ります。分けるべきなのは「与信があるかどうか」ではなく、与信が相手の会社に対して行われるのか、本人に対して行われるのかです。前者なら、決算書のように営業担当者が持ち出せない資料が判断材料になります。
編成|売り手が1人で行かなくなる
job tag の「コンサルティング営業(IT)」は、訪問の形そのものが変わると書いています。
システムエンジニアなどと顧客先を訪問し、顧客が抱える技術的課題を聞き、現実的な解決策を提案し、顧客から質問があれば、システムエンジニアとともにそれに答える。また、開発部門と一緒に提案書をまとめたり、納品後のアフターケアも担当する場合もある。
同ページにはさらに「規模の大きな案件では、複数のシステムエンジニアと共同で対応する。この場合、システムエンジニアは必要な専門分野の担当者が複数集められる」とあります。つまり法人型では、買い手側が何人いるかを数える前に、売り手側が何人で行くかが変わっているということです(2026年8月2日取得)。
この「営業とマーケティングと実装をまたいで動く」形が職種として独立してきたのが、近年語られるGTMエンジニアです。売り手側の編成をどう組むかという話に踏み込みたい場合はGTMエンジニアとは何者か(営業×マーケ×実装を横断する職種)を参照してください。
引渡し後|納品してから説明会と保守が始まる
job tag の「OA機器営業」は、定義文で「顧客は法人が大半を占めている」と明言したうえで、納品後の職務をこう書いています。「顧客への販売が成立した場合は、販売契約書の締結、OA機器の納入の手配を行い、OA機器納入後は技術者と連携してOA機器の操作方法などについて説明会を実施する」。
ここが個人型との実務上の分かれ目になります。個人型でも引渡し後のメンテナンスはありますが(住宅・不動産営業の定義文にも「引き渡した後も、メンテナンスなどきめの細かいサービスを提供し」とあります)、法人型では「契約した人」と「実際に使う人」が別なので、使う人に向けた説明会が別途必要になります。契約時に説明した内容は、使う人には届いていないという前提で動くことになります(2026年8月2日取得)。
「決裁の段数」は推測せず、自分の記録から数える
「法人の購買には何人が関与する」という数字は各所で流通していますが、その多くは特定業界・特定規模を対象にした調査の値で、自社の商材にそのまま当てはまるとは限りません。ここでは他人の平均値を借りず、自分の受注記録から段数を数える方法を採ります。手元に10件ぶんの記録があれば、平均値より正確な答えが出ます。
筆者自身、広告やSNSの成果よりも、直接的な営業や販路の見直しのほうが大きな成果につながるケースを多く経験してきました。ただし、その経験が効いたのは勘が働いたからではなく、誰が決めたのかを商談ごとに把握できていたからです。同じ材料は記録からでも作れます。次章がその手順です。
【判定】直近10件の受注・失注から「決裁の段数」を数える
ここからは読者自身の手を動かす章です。用意するのは直近10件ぶんの受注・失注記録だけで、新しくアンケートを取る必要はありません。所要時間の目安は20分です。
手順|1件につき3つだけ記録する
- 直近の「受注」と「失注」を、新しい順に合計10件並べる。受注だけを並べないこと。失注が入らないと判定が偏る。
- 各件について、提案から決着までに自分が説明した相手の人数を書く。同席者も1人として数える。
- 各件について、最終的に決めた人に自分が直接会えたかを「はい/いいえ/不明」で書く。メールや電話でのやりとりも「会えた」に含めてよい。誰が決めたか分からない場合は「不明」にする。
- 各件について、決め手または断り文句として実際に言われた一言をそのまま書き写す。要約せず、言われた言葉のまま残す。
- 10件のうち、手順3が「はい」だった件数の割合を出す。これが判定値になる。
すでに「何がきっかけで知ったか/最後の決め手/他社に決めた理由」の3問を記録している場合は、そこに手順3の1列を足すだけで済みます。この3問の取り方は欠けている機能を棚卸しする手順のほうにまとめてあります。
合否ライン|「直接会えた」割合で読む
| 「直接会えた」割合 | 判定 | 次に見るところ |
|---|---|---|
| 7割以上 | 個人型 | 説明資料に費用・法令・税など条件情報が全部入っているか |
| 3割未満 | 法人型 | 自分がいない場で読まれる前提の資料が1枚もない状態になっていないか |
| 3割以上7割未満 | 混在 | 商材か価格帯で2群に分け、群ごとに数え直す |
先に見るべき例外があります。手順4の「言われた一言」が10件中3件も埋まらない場合、判定よりも記録を取ることが先です。ここが空のままだと、どの施策が効いたのかは今後も分かりません。判定値だけ出しても、次に何を直すかの根拠が無い状態が続きます。
また、「不明」が多い場合も判定は成立しません。「不明」は「いいえ」に寄せず、そのまま「不明」として集計から外し、母数を減らして割合を出してください。10件中「不明」が5件を超えたら、判定できるだけの記録が残っていないという結果になります。その場合は、次の10件を新しく記録するところから始めます。
判定結果で、次にやることが変わる
判定値が出たら、やることは1つに絞れます。ここでは打ち手を1つずつしか挙げません。同時に複数やると、どれが効いたのか分からなくなるからです。
打ち手を1つに絞ったあと、その施策を実際に実行してよいかどうかは別の判定になります。売り手・買い手・世間の3つで着手前に落とす手順は、WEBマーケティングの本質は三方良し|江戸時代から続く普遍的原則と実践法にまとめています。
個人型(7割以上)|説明の抜けを1つ潰す
決定者に直接説明できているのに受注に変わっていないなら、負けている原因は伝え方ではなく渡していない情報にあります。手順4で書き写した断り文句を10件ぶん並べて、費用・法令・税・引渡し後の対応のどれに関する言葉が多いかを数えてください。最も多かった1項目を、次の提案資料に1ページ足す。これだけです。
効いたかどうかは、次の10件で同じ言葉が減ったかどうかで判定します。減っていなければ、その項目は原因ではなかったということなので、2番目に多かった項目に移ります。
法人型(3割未満)|自分がいない場で読まれる1枚を作る
説明した相手と決める人が別なら、提案の中身はあなたが同席していない場で読まれます。そこで必要なのは、口頭の補足なしで意味が通る1枚です。入れる項目は前章で確認した法人型の職務からそのまま引けます。
- 支払い条件と、自社が取引に耐えられることを示す材料(与信の観点)
- 導入時に自社側から誰が出るか(編成の観点。担当営業以外の職種名を書く)
- 納品後に誰が何をするか(説明会・保守の観点。実際に使う人向けの記述)
効いたかどうかは、次の10件で「決めた人に会えた」割合が上がったかではなく、担当者から社内共有した旨の連絡が返ってくるようになったかで見ます。1枚が機能していれば、担当者はそれを転送できるようになります。
判定と受注率が食い違うとき
判定は出たのに結果と噛み合わない場合が2つあります。
「直接会えた」割合が高いのに受注率が低い場合は、個人型なのに条件説明が抜けている状態です。上の個人型の手順に戻ってください。会えていること自体は強みなので、販路を触る前に説明資料を直すほうが早く効きます。
「直接会えた」割合が低いのに受注率が高い場合は、紹介や指名で決まっている可能性が高い状態です。これは営業の問題ではなく販路の話なので、扱う記事が変わります。販路を切り替えると何が起きるかは販路を切り替えた事例にまとめてあります。そこまで進んだら本記事の役目はいったん終わりです。
この判定は1回で止めてください。判定結果をもとに打ち手を1つ実行し、次の10件で確かめる。ここまでが1周です。判定方法そのものの精度を上げる作業に入ると、手が止まります。
よくある間違いを3つ正す
間違い1|「法人は論理・個人は感情」で分ける
この分け方の問題は、間違っていることではなく検証できないことです。相手が論理で決めたか感情で決めたかは本人にも説明できない場合があり、外から確認する方法がありません。一方、「何人に説明したか」「決めた人に会えたか」は記録を見れば分かります。打ち手につながるのは後者です。
間違い2|営業経験がないとマーケティングはできないと考える
これは公的な職業情報とも食い違います。job tag の「Webマーケティング(ネット広告・販売促進)」の「就業するには?」には、入職経路として「大学や短大、専門学校等を卒業後、広告代理店やWebマーケティング会社、Webマーケティング部門のある企業に入社する経路が一般的である」と書かれ、続けて「Webデザイナー等として経験を積んだ人が転職する場合もある」とあります。営業経験は入職要件にも推奨要件にも挙がっていません(2026年8月2日取得)。
もっとも、営業経験が無意味というわけでもありません。同じ job tag の「コンサルティング営業(IT)」には「他業種で営業経験を積んだ人が中途採用される場合も多い」とあり、営業経験が入職経路として機能している職業もあります。正確に言えば、必要なのは営業経験そのものではなく、営業の現場でしか取れない情報(誰が決めたか・何が決め手だったか・なぜ断られたか)です。その情報は、経験の代わりに記録で手に入ります。本記事の判定手順は、まさにその記録を作る作業です。
マーケターの職務範囲そのものをどこで線引きするかはSNS運用とマーケティングの違い(職務・KPI・販路での線引き)で扱っています。
間違い3|個人向けなのに社内稟議用の資料を作る
法人型向けのノウハウをそのまま個人型に持ち込むと、この形になります。判定が「個人型」と出ているのに、導入体制図や中期の投資対効果を並べた資料を作ってしまう。決めるのは目の前の1人なので、その人が知りたい費用・法令・税・引渡し後の対応が後ろに追いやられます。
逆向きの取り違えも同じくらい起きます。検索経由の集客でも事情は変わりません。同じ「購入を検討している人の検索」でも、個人が自分で買う場合と、担当者が社内に持ち帰る場合では、着地したページに必要な情報が違います。検索意図の側からこの差を見る場合はBuyクエリを含む検索意図別の書き分けが参考になります。
判定結果に合わせた資料や導線をどう組むかまで含めて相談したい場合は、実装側から支援しています。
まとめ
個人営業と法人営業の違いは、最終的に決める人が目の前にいるかどうかです。公的な職業定義に「個人営業」「法人営業」という職業は存在しませんが、商材別に並んだ定義文を読み比べると、相手が個人か組織かで職務の中身が入れ替わっていることが確認できます。個人型では条件情報を説明しきることが、法人型では与信・売り手側の編成・引渡し後の説明会が、それぞれ職務に入ります。
判定の合否ラインをもう一度置いておきます。直近10件のうち「最終的に決めた人に直接会えた」が7割以上なら個人型、3割未満なら法人型、その間なら混在です。個人型なら説明資料の抜けを1つ潰す。法人型なら自分がいない場で読まれる1枚を作る。混在なら商材か価格帯で2群に分けて数え直す。まずここまでを1周してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 個人営業と法人営業の違いは何ですか?
最終的に決める人が目の前にいるかどうかです。個人型の取引は商品を使う本人が契約の相手なので、その場で条件を説明しきれば決まります。法人型の取引は説明した相手と決める人が別のことがあり、そのあいだに相手の信用状態の調査(与信)と社内の手続きが挟まります。金額の大小や商談期間の長さは、この違いの結果として現れるもので、区別の基準そのものではありません。
Q. 自社の商談がどちら型かは、どうやって見分けますか?
直近10件の受注・失注について「最終的に決めた人に自分が直接会えたか」を「はい/いいえ/不明」で記録し、「はい」の割合を出してください。7割以上なら個人型、3割未満なら法人型、その間なら混在です。「不明」は「いいえ」に寄せず集計から外し、母数を減らして割合を出します。「不明」が5件を超えた場合は、判定できるだけの記録が残っていないという結果になります。
Q. 「個人営業」「法人営業」という職業は公的に定義されていますか?
されていません。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は営業職を商材ごとに掲載しており、職業分類の名称も「不動産営業員」「金融・保険営業員」「機械器具営業員」「飲食料品営業員」といった商材基準の名前で、確認した範囲では個人営業員・法人営業員にあたる分類名は見当たりません。ただし各職業の定義文には取引の相手が個人か組織かが書かれているため、そこを基準に束ね直すことは可能です。
Q. 個人向けの取引でも与信は必要ですか?
必要になる場合があります。job tag の「自動車営業」には「見込み客に関する信用情報を得る」というタスクがあり、実施率95.7%・重要度3.4と高い水準です。ローンを組む商材では相手が個人でも支払い能力の確認が入ります。個人型と法人型を分けるのは与信の有無ではなく、与信の対象が本人なのか相手の会社なのかという点です。会社が対象なら、営業担当者が持ち出せない資料が判断材料に入ってきます。
Q. 法人向けなのに担当者としか会えない場合はどうすればよいですか?
決定者に会おうとするより先に、自分がいない場で読まれる前提の資料を1枚作るほうが確実です。入れる項目は支払い条件と自社の取引実績、導入時に自社側から出る職種、納品後に誰が何をするかの3つです。効果は「決めた人に会えた割合」ではなく、担当者から社内共有した旨の連絡が返ってくるようになったかで判定してください。担当者が転送できる形になっていれば、その1枚は機能しています。
Q. 判定が「混在」になった場合はどう分ければよいですか?
商材か価格帯のどちらかで2群に分けて、群ごとに数え直してください。1つの会社が個人向けと法人向けの両方を扱っている場合、10件をまとめて数えると割合が中間に寄り、どちらの打ち手も当たらなくなります。分けた結果、片方が7割以上・もう片方が3割未満になれば、それぞれに別の資料を用意する判断ができます。分けても中間のままなら、商材ではなく価格帯で分け直してみてください。
Q. 厚生労働省の職業情報はどこで確認できますか?
職業情報提供サイト(job tag)で職業ごとの詳細ページが公開されています。本記事で引用した記述は各ページの「どんな仕事?」「就業するには?」に、実施率と重要度の数値は同ページの「タスク(職業に含まれるこまかな仕事)」に掲載されています。本記事の引用はすべて2026年8月2日に取得したものです。数値は調査時点のものなので、実務で使う際は最新のページを確認してください。
