SNS運用とマーケティングの違いは、担当する範囲の広さではなく、どのチャネルを使うか自体を決められるかどうかにあります。SNS運用は決まったチャネルの中で成果を最大化する仕事、マーケティングはそのチャネルの取捨選択と配分を決める仕事です。
この線引きは好みの問題ではありません。国が公開している職業定義、マーケティングの公式定義、計測ツールが実際に採用しているチャネル分類、市場統計、利用実態調査という一次資料だけを並べると、同じ境界が繰り返し現れます。この記事ではその境界を確認したうえで、あなた自身の販路に当てはめるところまで進みます。
到達点は「読んで納得すること」ではありません。自分(自社)の販路を1枚の表に棚卸しして、投下時間と受注の食い違いが最も大きいチャネルを1つ特定するところまでを目標にします。埋めるのに必要なのは直近3か月ぶんの数字だけです。
結論|線引きは「チャネルを選ぶ権限があるか」
両者を分けているのは、担当業務の量でも肩書きでもなく、握っている意思決定の層です。SNS運用は「Instagramで何を、いつ、どう出すか」を決める仕事です。マーケティングは「そもそもInstagramに人と予算を置くべきか、置くなら全体の何割か」を決める仕事です。同じ「SNS」という言葉を使っていても、決めている対象が一段違います。
| 観点 | SNS運用 | マーケティング |
|---|---|---|
| 決める対象 | 決まったチャネルの中で何をどう出すか | どのチャネルを使い、どう配分するか |
| 主なKPI | リーチ・エンゲージメント・フォロワー | 商談数・受注数・獲得単価 |
| 成果が出ないとき問われること | 投稿の質・頻度・運用設計 | 予算と人の配分そのもの |
| 判断に必要な材料 | チャネル内の指標 | チャネル横断の比較データ |
ここで強調しておきたいのは、これが上下関係ではないということです。チャネルの中で成果を出すのは独立した専門性で、配分を決める側がその実行をできるとは限りません。後述するとおり、SNSは今なお最も多くの人に届く接触面です。担当している意思決定の層が違うだけで、価値の大小の話ではありません。
職務を「何ができるか」ではなく「何を決められるか」で切り分ける考え方は、Web制作の現場でも同じ形で使われています。制作スキルの有無でディレクションとディレクターを分ける考え方は、この記事の線引きとまったく同じ構造です。呼び名ではなく決定権で切ると、職種の議論は具体的になります。
なお、この記事はあくまで「SNS運用との職務の違い」に絞って答えます。マーケティングという営みそのものが何であり、経営や営業とどう噛み合うのかという全体像は、本当のマーケティングとは何かの全体像にまとめてあります。
公的な定義で確かめる|「マーケター」の職務にSNS運用は入っていない
国が公開している職業定義を見る
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」で、職業別名に「マーケッター、マーケター」を持つ職業はマーケティング・リサーチャーです。職業分類は「企画・調査事務員」、属する産業は「学術研究、専門・技術サービス業」に置かれています。「どんな仕事?」の書き出しはこうです。
消費者の好みや関心、他社や業界全体の動き、広告の効果や販売戦略など、依頼主が必要としている様々な市場(マーケット)のデータや情報を収集、分析し、報告する。
同じページには「タスク(職業に含まれるこまかな仕事)」が実施率つきで掲載されています。上位に並ぶのは次の4つです(出典:厚生労働省 job tag「マーケティング・リサーチャー」/2026年8月2日取得)。
| 実施順 | タスク内容 | 実施率 |
|---|---|---|
| 1 | 市場調査の発注者と打合わせをして必要なデータや情報の要望などを確認する | 80.5% |
| 2 | 調査対象者や調査方法の選定をする | 87.8% |
| 3 | 消費者からデータを収集する | 87.8% |
| 4 | 収集したデータを分析し、解釈や結論を導き出す | 95.1% |
4つとも「市場を調べて、分析して、報告する」に集中しており、SNSの投稿や運用は1つも含まれていません。労働条件のデータも同じ性格で、賃金(年収)は全国736.8万円、就業形態は「正規の職員、従業員」が80.4%(いずれも令和7年賃金構造基本統計調査等を加工した数値)。調査・分析を本務とする内勤職として整理されています。
ひとつ正確を期しておきます。これは「マーケター」を別名に持つ職業ひとつの公的な定義であって、世の中の求人票に並ぶ「Webマーケター」がすべてこの内容だという意味ではありません。ここで確認したいのは職務の中心がどこに置かれているかだけです。そして公的な定義における中心は、一貫して「市場を見て判断材料を作る」側にあります。
業界団体の定義を2つ並べる
公益社団法人 日本マーケティング協会は2024年1月25日に定義を改訂しました。原文はこうです。
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。
この定義には注が3つ付いており、注1は「主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る」と明記しています。あとで触れる「マーケティングは大企業のもの」という誤解への直接の反証がここにあります。
もう一方、American Marketing Association(AMA)の定義は次のとおりです。
Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.
(マーケティングとは、顧客・クライアント・パートナー・社会全体にとって価値のある提供物を、創出し、伝達し、届け、交換するための活動であり、一連の制度であり、プロセスである。)
なお、AMAのページには承認年の記載がありません。定義は「5名の現役研究者からなるパネルによって定期的に見直され、再承認または修正される」と説明されています。年号つきで引用している記事を見かけたら、原典を確認したほうが安全です。
| 出典 | 発表・改訂 | 定義の主語 | 守備範囲 |
|---|---|---|---|
| 日本マーケティング協会 | 2024年1月25日改訂 | 企業に限らない(注1) | 価値の共創と浸透、関係性の醸成 |
| American Marketing Association | 承認年の記載なし(定期的に再承認・修正) | activity, set of institutions, and processes | 創出・伝達・提供・交換 |
| 厚労省 job tag | — | 個人(職業として) | 市場データの収集・分析・報告 |
3つの定義のどれも、特定のチャネルの運用を職務の中心に置いていません。共通しているのは「市場を見て、価値の届け方を決める」という層に軸足があることです。SNSはその届け方の候補のひとつとして初めて登場します。
出典:厚生労働省 job tag「マーケティング・リサーチャー」/公益社団法人 日本マーケティング協会 協会案内/American Marketing Association “Definitions of Marketing”(いずれも2026年8月2日取得)
チャネルは何種類あるのか|SNSはそのうちの2つ
「チャネルを選ぶ」と言うとき、選択肢が何個あるのかを具体的に持っていなければ選びようがありません。実務で使える一覧として最も手近なのが、Googleアナリティクス(GA4)のデフォルトチャネルグループです。計測ツールが実際に使っている分類なので、机上の分類ではなく数字が紐づきます。
ここで先に断っておくことがあります。2026年8月2日に確認したところ、同じヘルプページでも英語版は19チャネル、日本語版は18チャネルで一致していません。英語版にだけ「AI Assistants」があり、日本語版には未反映です。以下は英語版を正として19で数えます。日本語版だけを見ている人と数が食い違うのは、翻訳の反映待ちが理由です。
| チャネル(広告出稿を伴わない) | 日本語表記 | 主な流入元 |
|---|---|---|
| Direct | ノーリファラー | URL直接入力・ブックマーク |
| Organic Search | オーガニック検索 | Google・Bing等の自然検索 |
| Organic Social | オーガニック ソーシャル | SNSの広告以外のリンク |
| Organic Shopping | オーガニック ショッピング | ショッピングサイトの自然枠 |
| Organic Video | オーガニック動画 | YouTube・TikTok・Vimeo等 |
| Referral | 参照 | ブログ・ニュースサイト等のリンク |
| メール | メール配信 | |
| SMS | SMS | テキストメッセージ |
| Mobile Push Notifications | モバイルのプッシュ通知 | アプリのプッシュ通知 |
| AI Assistants | (日本語版に未反映) | ChatGPT・Gemini等 |
| チャネル(広告・提携を伴う) | 日本語表記 | 主な流入元 |
|---|---|---|
| Paid Search | 有料検索 | 検索連動型広告 |
| Paid Social | 有料ソーシャル | SNS広告 |
| Paid Shopping | 有料ショッピング | ショッピング広告 |
| Paid Video | 有料動画 | 動画サイトの広告 |
| Display | ディスプレイ | バナー等のディスプレイ広告 |
| Affiliates | アフィリエイト | 提携サイトのリンク |
| Audio | オーディオ | 音声広告 |
| Cross-network | クロスネットワーク | 複数ネットワークにまたがる広告 |
| Paid Other | その他(有料) | 上記以外の有料流入 |
この19のうち、SNSとして分類されるのは Organic Social と Paid Social の2つだけです。Organic Social の定義は「ユーザーが Facebook や Twitter などのソーシャル サイトの広告以外のリンクからサイト / アプリにアクセスする際のチャネル」。注意したいのは、YouTube・TikTok・Vimeo からの流入が Organic Video / Paid Video という別チャネルに置かれていることです。実務では「SNS運用」に一括りにされがちですが、計測上は最初から別の行になっています。
各チャネルの成果を横に並べるには、CPC・CTR・CVR・CPAといった指標の定義が揃っている必要があります。言葉の意味があいまいなまま比較すると、比べているつもりで比べられていないという事故が起きます。指標名の意味はCPC・CTR・CVなど基本用語の解説で確認しておいてください。
チャネルの一覧は固定ではなく、増え続けている
英語版にだけ載っている AI Assistants の定義は次のとおりです。
AI Assistants is the channel by which users arrive at your site from sources like ChatGPT, Gemini, Deepseek, Copilot, or Grok. It excludes Google’s AI Overviews and AI Mode.
(AI Assistants は、ChatGPT・Gemini・Deepseek・Copilot・Grok といった提供元からユーザーがサイトに到達するチャネルである。GoogleのAI Overviews および AIモードは含まない。)
この行は数年前には存在しませんでした。つまりチャネルの選択肢は固定された一覧ではなく、増え続ける対象です。「どのチャネルを使うか」を決める仕事に終わりが来ないのはこのためです。SNS運用の担当範囲は仕様が変わっても2行のままですが、配分を決める側は行が増えるたびに判断をやり直すことになります。AI経由の流入をチャネルとして扱う際の考え方はAIO・AEO・GEO・LLMOの違いと対策で整理しています。
GA4に出ないチャネルがあることを忘れない
ここは飛ばすと判断を誤ります。GA4のチャネル分類はWebで計測できる範囲の分類であって、販路の全部ではありません。展示会・紹介・電話・代理店・実店舗・既存客のリピートは、この19行のどこにも現れません。BtoBや受託業では、むしろそちらが受注の主役であることが珍しくありません。
そのため、この記事の後半で作るワークシートでは、GA4の行をそのまま使ったうえでオフラインの販路を手で足します。計測できるものだけで配分を決めると、計測できる側に予算が寄るというバイアスがそのまま結論になってしまいます。
出典:Google アナリティクス ヘルプ「[GA4] Default channel group」(英語版)/同 日本語版(2026年8月2日取得。チャネル数と AI Assistants の有無が両版で異なることを確認)
市場の実額で見る|BtoBはBtoCの約20倍
チャネルの最適解は、自分がどの市場で戦っているかによって変わります。経済産業省が2025年8月26日に公表した「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(1998年度から数えて27回目)の数字を置きます。
| 区分 | 2024年の市場規模 | EC化率 |
|---|---|---|
| BtoC-EC | 26.1兆円(前年24.8兆円・前年比5.1%増) | 9.8%(前年比0.4ポイント増) |
| BtoB-EC | 514.4兆円(前年465.2兆円・前年比10.6%増) | 43.1%(前年比3.1ポイント増) |
| CtoC-EC | 2兆5,269億円(前年比1.82%増) | — |
BtoB-EC は BtoC-EC の約20倍の規模があります(514.4 ÷ 26.1 ≒ 19.7)。個人向けのSNS活用事例が可視化されやすいぶん、金額としてはるかに大きい企業間取引の存在が視界から抜けやすいという構図です。
EC化率の読み方には注意が必要です。この調査でのEC化率は、BtoC-ECについては物販系分野のみを算出対象としています(BtoB-ECでは業種分類上「その他」以外の業種が対象)。したがって「BtoCの商取引の9割はEC以外」とまとめるのは不正確で、正しくは「物販の分野に限れば、EC経由は約1割」です。ここを混同したまま予算配分の根拠に使うと、話が合わなくなります。
そしてこの数字が示しているのは「どこで出会うか」ではなく「どこで取引するか」です。EC化率が上がっても、その取引の入口がSNSなのか検索なのか紹介なのかは別問題です。ここを分けて考えられるかどうかが、チャネルを選ぶ側に立てているかの分かれ目になります。
ここから導かれる結論は「SNSは無意味だ」ではありません。自分がどの市場で戦っているのかを決めないままチャネルを選ぶことが問題だ、ということです。BtoC物販の感覚で組み立てられたSNS施策の型を、BtoBの商材にそのまま当てれば当然ズレます。逆も同じです。
なお、市場の選択から実装までを一人で貫く職種として、近年GTMエンジニアとGo-To-Marketの考え方が語られるようになりました。チャネル選択権を持つ実務者像として参考になります。
出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日)(2026年8月2日取得)
それでもSNSを外せない理由|接触面としては最大級
ここまで読むと「SNSは軽視してよい」と受け取られかねないので、逆側の数字も置きます。総務省の令和7年版 情報通信白書によれば、LINEの利用率は全体で2014年の55.1%から2024年には94.9%へ、60代でも11.3%から91.1%へ増加しました。X(旧Twitter)とInstagramも2024年には全体の半数程度が利用しており、50代でも4割以上が使っています。
白書の注記どおり、2024年の全体の利用率は10代から60代までの利用率から算出されている点は押さえておいてください。それでも、ここまで年齢層を横断して浸透しているチャネルは他にほとんどありません。
ただし、利用者がそこにいる理由は別に確認する必要があります。総務省の令和6年 通信利用動向調査では、インターネット利用者のうちSNS利用者の割合は81.9%。その利用目的は次のようになっています。
| SNSの利用目的(複数回答) | 割合 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 従来からの知人とのコミュニケーションのため | 87.7% | 第一の来訪動機は購買ではない |
| 知りたいことについて情報を探すため | 64.0% | 情報探索の場としても機能している |
調査は「利用目的については令和5年調査から大きな変化は見られず」と述べており、単年のブレではありません。ここから言えることはSNSは接触面としては最大級だが、利用者がそこにいる第一の理由は知人とのやりとりであるということです。だから認知を担う役割としては極めて強く、最後の刈り取りを単独で担わせるには条件が要ります。
同時に、2位の「知りたいことについて情報を探すため」が64.0%に達している事実も見落とすべきではありません。SNSを情報探索の入口として使う層は確実に存在します。「SNSは遊びの場だから商売にならない」という単純化も、この数字に照らせば正しくありません。
整理するとこうなります。SNS運用は19分の2を担当する仕事ですが、その2つが最も多くの人に届く面である。だからSNS運用は小さい仕事ではありません。繰り返しになりますが、違うのは規模ではなく、決めている意思決定の層です。
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」コミュニケーションツール・SNS/総務省「令和6年通信利用動向調査の結果」報道資料(PDF)(いずれも2026年8月2日取得)
【判定】販路を1枚に棚卸しして、投下時間と受注のズレを見つける
ここまでは定義と統計の話でした。ここからは自分の数字に置き換えます。目的は「SNSに時間をかけすぎているのか」を、意見ではなく自分のデータで判定することです。所要時間は数字が手元にあれば30分程度です。
手順
- 直近3か月を対象期間に固定する。期間を揃えないとチャネル同士を比較できません。
- 使っているチャネルを行として書き出す。オンラインはGA4の「レポート」→「集客」→「トラフィック獲得」に出るデフォルトチャネルグループをそのまま使ってかまいません。GA4に出ないチャネル(展示会・紹介・電話・代理店・既存客のリピート)は手で行を足します。
- 各行に投下時間を入れる。実測が無ければ「週あたりの平均時間 × 13週」で概算して差し支えありません。厳密な絶対値ではなく、行と行の相対比較が目的だからです。
- 商談・問い合わせ数と受注数を入れる。受注が取れなかったチャネルも0と書きます。空欄にすると次の計算で行ごと消えてしまいます。
- 投下時間シェア(%)と受注シェア(%)を出し、差(pt)が最も大きい行を1つだけ特定する。複数挙げないでください。1つに絞ることがこの作業の要点です。
| チャネル | 投下時間(h/3か月) | 商談・問い合わせ数 | 受注数 | 受注1件あたり時間 |
|---|---|---|---|---|
| Organic Social(SNS投稿) | ||||
| Organic Search(検索) | ||||
| 紹介・リファラル | ||||
| 展示会・オフライン | ||||
| その他 |
合否ライン
| 結果 | 判定 | 次の一手 |
|---|---|---|
| 投下時間シェアと受注シェアの差が最大のチャネルを1つ特定できた | OK(この記事の目的を達成) | そのチャネルの投下時間を半分にし、差がマイナス側(受注シェアの方が高い)のチャネルへ回す |
| 全チャネルで差が10pt未満に収まった | NG/対象外 | 配分の問題ではない。商品・価格・提案の側を疑う。チャネルをいじっても動かない |
| 対象期間の受注が3件未満 | NG/データ不足 | 受注数では判定しない。「商談・問い合わせ数」で同じ計算をやり直す |
「10pt」の根拠を明示しておきます。これは統計的な有意水準ではなく、運用上の目安として置いている閾値です。行数が5前後のとき1行あたりの平均シェアは20%前後になるため、その半分を「偏りとして意味を持つ差」の下限に置いています。行数を10行に増やすなら5pt程度まで下げてください。数字そのものより、閾値を先に決めてから表を見ることが重要です。埋めたあとに基準を決めると、都合のよい行を選んでしまいます。
結果が想定から外れたときの分岐
- 差が最大なのがSNSだった — 想定どおりのパターンです。投下時間を半分に落として1か月後に商談数が減るかを見ます。減らなければ過剰投資だったと判断できます。減ったなら認知の入口として機能していたので戻します。
- 差が最大なのが「紹介」だった(受注シェアが高いのに投下時間がほぼゼロ) — 紹介は投下時間を増やして直接増やせるものではありません。紹介が起きた条件(誰が・何を見て・いつ紹介したか)を1件だけ聞き取り、それを再現できる形(事例の公開・成果物の共有)に置き換えます。
- 差が最大なのが検索だった — 検索は投下時間と結果の間が数か月ずれます。同じ3か月の表で判定すると過小評価になるため、公開した時期をずらして見直してください。
- どのチャネルも受注0だった — 販路の問題ではありません。上の表の「NG/対象外」に合流します。商品・価格・提案の側を先に見直します。
- GA4を入れていない — チャネル行を「検索/SNS/紹介/直接連絡/その他」の5行に減らして手集計します。判定の粒度は落ちますが、差が最大の1行を出すという目的は達成できます。
検索チャネルの中身を実際に見に行く段階になったら、ページ単位の状態を確認できるツールを使うと早いです。Direbase(ディレベース)は登録なしで診断を始められます。
同じ「先に棚卸してから決める」やり方は、販路以外にも使えます。サイト内部の導線については内部リンクの棚卸し手順(孤立ページとリンクの島を検出する方法)が同じ構造の作業になっているので、あわせて回すと全体像が揃います。
この記事の到達点はここまでです。あえて1ホップで止めます。「この判定手法そのものが妥当か」の検証には進みません。埋まった表が1枚あれば、次の判断に必要な材料としては十分だからです。手を動かす順番としては、判定手法を疑うより先に1枚埋めるほうが確実に前へ進みます。
表を埋めた結果、配分ではなく実装や制作の体制そのものがボトルネックだと分かることもあります。その場合は作り手側に相談するほうが早いです。
よくある誤解を3つ正す
誤解1|フォロワーが増えれば売れる
フォロワー数は Organic Social という入口の大きさを示す指標であって、受注を示す指標ではありません。冒頭の表で整理したとおり、両者はKPIの層が違います。総務省調査でSNS利用目的の最上位が「従来からの知人とのコミュニケーションのため」(87.7%)である以上、フォロワーの中に購買文脈で来ていない人が相当数含まれるのは当然の帰結です。認知の指標と受注の指標は同じ表に並べて、別の列として扱ってください。
誤解2|マーケター=広告運用ができる人
job tag の職業定義(市場データの収集・分析・報告)と噛み合いません。広告運用は Paid Search / Paid Social といったチャネルの中の実行にあたります。ただし誤解を招かないように付け加えると、広告運用ができることは弱点ではなく強みです。配分を決めるには比較材料が要り、広告運用者は自分でその材料を作れるからです。足りないのは技能ではなく、チャネルを横に並べて捨てる判断の場に立てているかどうかです。
誤解3|マーケティングは大企業のもの
日本マーケティング協会が2024年に改訂した定義の注1が直接の反証になります。「主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る」と明記されているためです。フリーランスでも個人開発者でも、扱えるチャネルが複数あって配分を決めているなら、それはマーケティングの職務です。規模ではなく、決定権の有無が判定条件です。
その配分をどんな基準で良し悪し判断するかについては、三方良しをマーケティングの原則として使う考え方が補助線になります。短期の数字だけで配分を決めると、翌期に効かなくなる施策を選びがちです。
まとめ
SNS運用とマーケティングの違いは、上下でも範囲の広さでもなく、チャネルを選ぶ意思決定を持っているかです。根拠は3つあります。公的な職業定義は職務の中心を市場データの収集・分析・報告に置いていること。計測ツールのチャネル分類ではSNSは全体の2つでしかなく、しかもその一覧自体が増え続けていること。そして市場の実額は区分によって桁が違い、どこで戦うかを決めなければチャネルは選べないことです。
同時に、SNSが最も多くの人に届く接触面であることも数字が示しています。だからSNS運用を軽く見る話ではありません。次の一手はひとつだけです。この記事のワークシートを1枚埋めて、投下時間と受注のズレが最大のチャネルを1つ特定してください。それが決まれば、次に何を減らして何に回すかは自動的に決まります。
職務の線引きではなく、マーケティングという営みそのものの全体像を知りたい場合は本当のマーケティングとは何かへ進んでください。
よくある質問(FAQ)
Q. SNS運用担当とWEBマーケターは、職務としてどこが違いますか?
決められる範囲が違います。SNS運用は決まったチャネルの中で何をどう出すかを決める実行の仕事、マーケティングはどのチャネルを使い予算と時間をどう配分するかを決める仕事です。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)で「マーケター」を別名に持つ職業「マーケティング・リサーチャー」の職務説明にもSNS運用は含まれておらず、市場のデータや情報を収集・分析し報告することが中心と定義されています。
Q. SNSのフォロワーが増えているのに売上が伸びないのはなぜですか?
フォロワー数は接触面の大きさを示す指標であって、受注を示す指標ではないためです。総務省の令和6年通信利用動向調査では、個人のSNS利用目的の最上位は「従来からの知人とのコミュニケーションのため」で87.7%を占めており、購買文脈で使われているとは限りません。認知の指標と受注の指標を同じ表に別々の列として並べ、投下時間あたりの受注数で比較すると判断できます。
Q. チャネルにはどれくらいの種類があるのですか?
Googleアナリティクス(GA4)のデフォルトチャネルグループは、2026年8月2日時点で英語版のヘルプが19種類、日本語版が18種類を掲載しています(差分は英語版にのみある AI Assistants)。このうちSNSとして分類されるのは Organic Social と Paid Social の2つだけです。さらに展示会・紹介・電話・代理店などオフラインの販路はここに含まれないため、実際の選択肢はもっと多くなります。
Q. 個人事業やフリーランスでも「マーケティング」と呼んでよいのですか?
呼んでかまいません。日本マーケティング協会が2024年1月25日に改訂した定義には注記があり、「主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る」と明記されています。扱えるチャネルが複数あり、そこへの配分を自分で決めているなら、規模にかかわらずマーケティングの職務にあたります。
Q. 販路の棚卸しは、どのくらいの期間のデータで判定すればよいですか?
直近3か月を目安にしてください。ただし対象期間の受注が3件未満の場合は受注数では判定せず、商談・問い合わせ数で同じ計算をやり直します。母数が小さいと受注1件でシェアが大きく跳ね、配分の判断材料になりません。なお検索チャネルは投下時間と結果の間が数か月ずれるため、同じ3か月で見ると過小評価になる点にも注意してください。
Q. SNS運用の経験しかない場合、次に何を身につければよいですか?
チャネルを横に並べて比較する力です。まず自分が回しているSNS以外のチャネルを3つ書き出し、それぞれの受注1件あたり時間を出すところから始めてください。新しいツールの操作を覚えることより、配分を決めるための材料を自分で作れるかどうかが分かれ目になります。材料さえ作れれば、決定権は後から付いてきます。
