ロジカルシンキングとラテラルシンキング|三方良しを設計できる思考バランス


Web制作の現場で「この人に頼みたい」と言われるのは、手が速い人でも、奇抜な発想ができる人でもありません。クライアントの成果と、サイトを使う人の便益と、自分の仕事の持続可能性を、同時に成立させられる人です。

ロジカルシンキングは筋道を立てて答えを1つに絞り込む垂直思考、ラテラルシンキングは前提を疑って選択肢を増やす水平思考です。実務で成果を出し続けるのは、どちらかが得意な人ではなく、この2つを行き来できる人です。片方だけでは、正しいけれど平凡な案か、面白いけれど実行できない案のどちらかにしかたどり着けません。

この記事では、2つの思考法の違いを整理したうえで、バランスの取れた人がなぜ「三方良し」の答えにたどり着けるのか、自分がどちらに偏っているかをどう判定するか、そして偏りをどう直すかまでを解説します。


ロジカルシンキングとラテラルシンキングの違い

2つの思考法は対立するものではなく、担当する仕事が違います。まず違いを一覧で押さえておきます。

比較項目ロジカルシンキング(垂直思考)ラテラルシンキング(水平思考)
考え方筋道を立てて縦に掘り下げる前提を疑って横に広げる
典型的な問い「なぜそうなっているのか」「そもそも必要なのか」
答えの数1つに絞り込む複数に増やす
得意なこと課題の特定・設計・検証発想・差別化・突破口づくり
単独で使うと正しいが平凡になる面白いが実行できない
Web制作での出番要件定義・情報設計・改善コンセプト立案・UI提案・企画

ロジカルシンキング|縦に掘って絞り込む

ロジカルシンキングとは、物事を筋道立てて、矛盾なく整理・分析して考える思考法です。事実を分解し、因果関係をたどり、最も確からしい結論に絞り込んでいきます。

  • 問題の本質を捉える
  • 情報を分解して整理する
  • 最も合理的な解決策を導く

Web制作でいえば、サイト構成の設計、ユーザー導線の設計、課題の発見に必須のスキルです。「なぜこのLPでコンバージョンが低いのか」「ユーザーはどこで離脱しているのか」といった問いを分解していくことで、はじめて正しい打ち手が見つかります。

ページを洗い出して階層に組み立てる作業は、ロジカルシンキングがそのまま形になる工程です。具体的な手順はサイト構造の設計手順|ページ洗い出しから階層を組み立てる情報設計のやり方で解説しています。

ラテラルシンキング|横に広げて前提を疑う

ラテラルシンキングとは、常識や前提を疑い、自由な発想で新しい視点を得ようとする思考法です。1つの答えに向かって掘るのではなく、答えの候補そのものを増やしにいきます。

この言葉を生み出したのは、思考法研究者のエドワード・デ・ボノです。公式サイト(de Bono)では、ラテラルシンキングを「違う考え方をするための構造化されたアプローチ(a structured approach for thinking differently)」と説明しています。思いつきの別名ではなく、意図的に前提をずらすための技術だという点は、押さえておく価値があります。

  • 固定概念にとらわれない
  • 新しい切り口を見つける
  • 斬新なアイデアを生み出す

Web制作では、デザインコンセプトの提案、UI/UX設計、差別化戦略で威力を発揮します。「飲食店のサイトをあえてアプリのようなUIで作る」「商品紹介ページを漫画で表現する」といった発想は、前提を一度外さなければ出てきません。

ただし、自由な発想と「なんとなく」は違います。発想を人に説明できる形にするには原則の裏づけが要ります。「デザイン理論」とは?UI/UXデザインの質を上げる6つの基本原則が、その土台になります。


バランスが取れている人は「三方良し」を設計できる

Web制作の仕事には、常に3つの利害が同時に存在しています。

  • クライアントの事業成果:問い合わせが増える、売上が上がる、採用が決まる
  • サイトを使う人の便益:探しているものが見つかる、迷わない、また来たいと思う
  • 作り手である自分の持続可能性:赤字にならない、消耗しない、次につながる

この3つが同時に立っている状態を、近江商人の言葉を借りて三方良しと呼びます。どれか1つを犠牲にすれば仕事はいったん前に進みますが、犠牲にした分は必ず後から戻ってきます。クライアントだけを見れば使いにくいサイトができ、利用者だけを見れば売上につながらず、自分だけを見れば二度目の依頼が来ません。

そして、この3つが重なる一点は探さなければ見つかりません。ここに、思考のバランスが効いてきます。

クライアントの成果・利用者の便益・自分の持続という3つの円が重なる一点が三方良しであることを示す図
クライアントの成果・利用者の便益・自分の持続。3つが同時に立つ一点を探しにいくのが、思考を往復させる目的です。

ロジカルだけの人は「言われた通り」で止まる

ロジカルシンキングは、与えられた前提の中で最適解を出す力です。裏を返すと、前提そのものは疑いません

「トップページに動画を入れたい」と言われたとき、ロジカル一辺倒の人は、動画をどう軽量化して、どこに置いて、どう計測するかを詰めます。仕事としては正しく、納品物にも問題はありません。ただ、そのクライアントが本当に困っているのが「問い合わせが月に2件しかない」ことだった場合、動画を完璧に実装しても数字は動きません。

これはクライアントの要望は満たしたが、事業成果にも利用者の便益にも届いていない状態です。三方のうち、誰も明確には得をしていません。要望を要件のまま受け取るか、その奥にある目的まで戻れるかの差が、ここで出ます。

ラテラルだけの人は「独りよがり」に落ちる

逆に、ラテラルシンキングだけで走ると、前提を壊すこと自体が目的化します。斬新な提案は出てきますが、それが誰の得になるのかを検証する装置を持っていません

スクロールに合わせて画面全体が変形する凝ったサイトを提案し、通ったとします。実装には想定の倍の工数がかかり、表示は重くなり、スマートフォンでは操作しづらい。作り手は「攻めた仕事ができた」と満足しますが、利用者は離脱し、クライアントの数字は下がり、自分は赤字を抱えます。

面白い案が悪いのではありません。面白さを、三方の利害で検算していないことが問題です。ラテラルは道具であって、主役は相手と目的の側にあります。

2つを行き来すると、三方の重なる一点が見える

三方良しの解が見つかるのは、次の順序で思考を往復させたときです。

  1. ロジカルで三方の現在地を分解する:クライアントは何で困っているか、利用者は何ができずにいるか、自分の工数はどこまで出せるか
  2. ラテラルで前提を外し、候補を増やす:その困りごとは、本当にこのページで解決すべきものか。別の形なら3つ同時に立たないか
  3. ロジカルで三方それぞれに検算する:この案でクライアントの数字は動くか、利用者は楽になるか、自分は続けられるか

さきほどの「トップページに動画を入れたい」に戻ります。ロジカルに分解すると、問い合わせが少ない原因は、動画の有無ではなく「価格の目安がどこにも書かれておらず、問い合わせるまで判断できないこと」だったとします。

ここでラテラルに振ると、「動画で会社を説明する」という前提を外して、「価格帯と事例を先に見せる」「見積もりの目安が自分で分かる簡易シミュレーターを置く」といった候補が出てきます。最後にロジカルで検算すると、シミュレーターは工数が重いので初回は見送り、まず価格帯の明示と事例3件の追加から始める、という判断になります。

これが三方の重なる一点です。クライアントは問い合わせの質が上がり、利用者は問い合わせる前に判断でき、作り手は現実的な工数で納められる。ロジカルだけでは動画を作って終わり、ラテラルだけではシミュレーターを作って赤字になっていたはずの案件です。

三方良しという原則そのものと、施策を打つ前に「やらない」を決める判定のやり方は、WEBマーケティングの本質は三方良し|江戸時代から続く普遍的原則と実践法で詳しく扱っています。本記事が「三方良しにたどり着くための思考」だとすれば、あちらは「三方良しで施策を判定する手順」です。


あなたはどちらに偏っているか|セルフチェック

バランスを取るには、まず自分の偏りを知る必要があります。直近3か月の自分の仕事を思い出しながら、当てはまるものを数えてください。

ロジカル偏重のサイン

  • 要望をそのまま要件に変換して着手することが多い
  • 提案が「参考サイトに近いもの」に落ち着きがち
  • アイデア出しの場で、実現可能性の指摘から入ってしまう
  • 「他社と何が違うのか」と聞かれると答えに詰まる
  • 相見積もりで、価格以外の理由で選ばれた記憶が少ない

ラテラル偏重のサイン

  • 提案は褒められるが、予算や納期で流れることが多い
  • 公開後の数字を、自分から見に行っていない
  • 見積もりが実工数と合わず、後半が持ち出しになりがち
  • 「なぜこの設計なのか」を、感覚以外の言葉で説明しづらい
  • チームに渡すと、意図が伝わらず作り直しが発生する

判定の読み方

結果状態次にやること
片方が3つ以上、もう片方が1つ以下はっきり偏っている多い側の章を読み、最初の一手を1つだけ実行する
両方が2〜3つ状況によって揺れている案件ごとに「今どちらのモードか」を口に出して切り替える
両方が1つ以下バランスが取れている思考の順序を言語化し、チームに渡せる形にする
両方が4つ以上偏りではなく、業務量か環境の問題思考法より先に、案件数と裁量を見直す

注意したいのは、偏りは能力の高低ではないということです。ロジカル偏重の人は信頼される納品ができ、ラテラル偏重の人は場を動かす提案ができます。足りないのは、もう片方を「使う場面を決めていない」ことだけです。


偏りを直す最初の一手

苦手な側を鍛えようとすると続きません。やることを1つに絞り、次の案件で必ず1回だけやるのが現実的です。

ロジカル偏重の人がやること

要件を確定する前に、前提を1つだけ声に出して壊す。「そもそもこのページは必要か」「この機能を作らずに同じ目的を達成する方法はないか」と、必ず1回は問い直します。

壊した前提は採用しなくて構いません。目的は案を通すことではなく、「他の選択肢を検討したうえでこれを選んだ」と説明できる状態を作ることです。これがあるだけで、提案は「言われた通り」から「選んだ理由がある」に変わります。

もう1つ有効なのは、異業種の解決策を持ち込むことです。飲食店の予約フローをBtoBの資料請求に応用する、といった横のつなぎ方は、本当のマーケティングとは?経営・営業との役割分担と販路設計で扱っている販路の考え方が参考になります。

前提を疑う練習だけを取り出してやりたい場合は、バグ調査は水平思考だった|実務ネタのウミガメのスープを作ったで紹介している水平思考クイズが使えます。実務で起きるトラブルを題材に、質問で範囲を削っていく手つきをそのまま鍛えられます。

ラテラル偏重の人がやること

提案する前に、目的を1文で書く。「このサイトは、誰が、何をできるようになれば成功か」を、装飾なしの1文にします。書けないときは、まだ提案の段階ではありません。

そのうえで、公開後に数字を見に行く習慣をつけます。自分の案が当たったのか外れたのかを事実で知ることが、ロジカル側の筋力になります。仮説を立てて実測で確かめる手順は、デベロッパーツールを使える人は伸びる|Chrome DevToolsで仮説と検証を回す手順にまとめています。

数字を見ると、当たらなかった案が必ず出てきます。それは発想力の否定ではなく、次の発想を現実に着地させるための材料です。この材料を持っている人だけが、面白い案を通し続けられます。


ラテラルシンキングだけに頼ると危険な理由

ラテラルシンキングは強力な武器ですが、単独で使うと具体的な形で事故が起きます。よくある3つを挙げます。

現実離れしたアイデアに走る

自由な発想だけを追求すると、実現不可能な案や、コスト面で非現実的な案ばかりが出てきます。「毎日デザインが変わるサイトにしよう」は面白い着想ですが、予算と運用工数を考えると多くの案件で成立しません。

問題は案そのものではなく、制約に戻る工程を持っていないことです。発想を広げたら、必ず予算・工数・運用体制の3点に引き戻して評価します。

目的やゴールを見失う

「何のためにこの制作をしているのか」という本来の目的を忘れ、アイデアを出すこと自体が目的になってしまうことがあります。

  • 本当は「お問い合わせを増やす」ことがゴールなのに、奇抜な演出にこだわってしまう
  • 目立つデザインを優先し、読みやすさや導線設計が犠牲になる

これは三方良しでいえば、作り手だけが満足している状態です。目的を1文で書いて手元に置いておくだけで、かなり防げます。

チーム内で混乱・対立が起きる

各メンバーが自由なアイデアを持ち寄りすぎると、方向性の統一が取れず制作が迷走します。ロジカルな整理がなければ合意形成も難しくなり、プロジェクト全体の質が下がります。

チームで動く場合、この整理を担うのがディレクションの役割です。制作と判断の関係についてはAI時代に必要なディレクターとは何か|制作もでき判断もできる人だけが実務で残る、役割そのものの線引きは制作スキルの有無で分ける「ディレクション」と「ディレクター」の違いで整理しています。


Web制作で回す「ロジカル→ラテラル→ロジカル」の3ステップ

実務に落とすときの順番は決まっています。ロジカルで始まり、ラテラルで広げ、ロジカルで閉じる。この往復が1セットです。

  1. ロジカルシンキングで課題を整理する
    誰に向けたサイトか、何を達成したいか、現状の問題はどこにあるかを分解する
  2. ラテラルシンキングでアイデアを広げる
    制約を一度取り払い、前提を疑いながら候補を増やす
  3. ロジカルシンキングで実現可能なプランにまとめる
    現実性・コスト・ゴール達成度、そして三方良しで検算する

つまずきやすいのは、ステップ2とステップ3を同時にやってしまうことです。広げながら評価すると、アイデアは出た瞬間に潰れます。広げる時間と、絞る時間は分ける。会議であれば、前半30分は否定なしで出し切り、後半30分で評価する、と明示的に区切るだけで成果が変わります。

設計にはロジカルを、アイデア出しにはラテラルを、最終判断にはまたロジカルを。このリズムを自分の口で説明できるようになると、提案の通り方が変わります。

では、各段で具体的に何を使うのか。1段目と3段目のロジカルでは推測を、2段目のラテラルでは類推を使います。2つの道具の使い分けと、借りてきた案が的外れになっていないか確かめる手順は 推測と類推の使い方 にまとめました。


Web制作以外でも効く4つの分野

この思考の往復は、Web制作に限らず「相手がいる仕事」すべてで機能します。三方の顔ぶれが変わるだけで、構造は同じです。

企画・マーケティング

市場やユーザーのニーズをロジカルに分析し、まだ誰も出していない切り口をラテラルで生み出す。既存市場の分解と、新しい市場の発見は、どちらが欠けても企画になりません。

マネジメント・リーダーシップ

チームの問題点をロジカルに特定し、解き方をラテラルに工夫する。「会議が長い」を会議術で解こうとするか、そもそも会議を減らす方向に振れるかで、打ち手の幅が変わります。

セールス・営業

顧客の課題をロジカルにヒアリングして分解し、普通は出てこない角度で提案する。「広告費が足りない」という相談に対して、広告の最適化ではなく、そもそも広告に頼らない集客の導線を提案できるかどうかです。

コンサルティング

クライアントの課題を論理的に掘り下げたうえで、想定外の角度から解決策を提示する。掘り下げだけでは現状の追認になり、角度だけでは根拠のない思いつきになります。


まとめ|バランスは才能ではなく、順序の問題

  • ロジカルだけでは、正しいけれどありきたりな案になる
  • ラテラルだけでは、面白いけれど実行できない案になる
  • 2つを行き来すると、クライアント・利用者・自分の3つが同時に立つ一点が見つかる

成功体験を積み重ねている人は、特別な才能を持っているわけではありません。広げる時間と絞る時間を分け、最後に三方で検算するという順序を、毎回守っているだけです。順序であれば、今日の案件から真似できます。

まずはセルフチェックで自分の偏りを確かめ、足りない側の「最初の一手」を次の1案件で1回だけ試してみてください。これはWeb制作のスキルではなく、相手がいる仕事すべてで使える一生モノの技術です。


よくある質問(FAQ)

Q. ロジカルシンキングとラテラルシンキングの違いは?

ロジカルシンキング(論理的思考)は事実から段階的に結論を導く垂直思考で、答えを1つに絞り込みます。ラテラルシンキング(水平思考)は前提を疑って多角的な視点でアイデアを生む発想法で、答えの候補を増やします。Web制作では、要件定義や情報設計をロジカルシンキングで進め、コンセプトやUIの提案をラテラルシンキングで広げる使い分けが効果的です。

Q. どちらを先に使えばいいですか?

ロジカルシンキングが先です。現状と目的を分解しないままアイデアを広げると、評価する基準がないため、面白いかどうかだけで案を選ぶことになります。ロジカルで課題を特定してからラテラルで候補を増やし、最後にもう一度ロジカルで検算する。この順序が実務では最も失敗が少なくなります。

Q. 思考のバランスが取れていると、なぜ成果につながるのですか?

クライアントの事業成果、サイト利用者の便益、作り手自身の持続可能性という三方の利害が重なる一点を見つけられるからです。ロジカルだけでは要望どおりの平凡な成果物になり、ラテラルだけでは作り手が満足するだけの案になります。前提を疑って選択肢を増やし、そのうえで三方それぞれに検算する往復ができる人だけが、三方良しの答えにたどり着けます。

Q. Web制作にロジカルシンキングが必要な理由は?

要件定義・情報設計・デバッグなど、Web制作の多くの工程が論理的な思考力を必要とするためです。クライアントの課題を正確に理解し、適切な解決策を設計するには、因果関係を整理する力が欠かせません。公開後の数字を見て改善する工程も、ロジカルシンキングがなければ成立しません。

Q. ラテラルシンキングを鍛える方法は?

既存のWebサイトを「なぜこのデザインなのか」と疑いながら分析する、異なる業界の解決策をWeb制作に応用する、制約をあえて変えて設計してみる(モバイルファーストを逆にするなど)といった練習が効果的です。要件を確定する前に「そもそもこのページは必要か」と1回だけ問い直す習慣も、日常の案件でそのまま実践できます。

Q. 自分がどちらに偏っているか分からないときは?

直近3か月の案件を振り返り、提案が参考サイトに近い形で落ち着いていればロジカル寄り、提案は褒められるのに予算や納期で流れていればラテラル寄りと判断できます。本記事のセルフチェックで、片方が3つ以上・もう片方が1つ以下なら、はっきり偏っている状態です。両方とも4つ以上当てはまる場合は思考の偏りではなく、案件数や裁量など環境側の問題を先に見直してください。